鈴木結生『ゲーテはすべてを言った』――ずいぶん手の込んだ偽書だな。端書きで執筆経緯を述べているし、参照を指示しているオンライン文献も実在する。ノンフィクションの体裁をとっている。しかし、本文(ほんぶん)を少し読み進めてから端書きを読み返すとフィクションである証拠がちゃんと書いてある。
扉の後ろに色は違うが扉と同じ用紙が一葉綴じ込まれている。これはなんだろう。ここから「真の本文(ほんもん)」であることを示しているのだろうか。
本文には多数の名言・格言が引用されているのだから、なかでもアメリカの詩人フロストが100年ほど前、40歳ぐらいの時に書いた「The Road Not Taken」という詩は、小説の筋でも大切な役割を果たしているのだが、私自身の来し方を考えさせられた。岩波文庫『対訳 フロスト詩集』p.90fに載っている(誤読についても訳者による解説で触れている)。私は分岐点で立ちすくんでしまった。そしてそうしているうちに日が暮れてしまったのだ。
ところで、主人公の大学4年生の娘が何年か前にエラスムスの『格言集(Adagia)」を読んだことになっているが、『格言集』はほんの部分訳しか出ていないのではないかな。国会図書館でも全訳は見つからない。レクラム文庫にも羅独対訳の抄訳があるけど、それで読んだのかな。
欧文混植の前で和文の字間が空きすぎているところがちらほらあるけど、欧文でハイフネーションをすればよかったのではないかなと思う。
などなど、いっぱい楽しめた。私には大当たり!の一冊であった。