『こちらあみ子』の原作を近所の本屋で見かけたので読んでみた。ちくま文庫に入っている。映画とは印象が違うのかもしれない。
悲劇はあみ子が引き起こしているのではない。社会がこの家族のところで綻びた。綻びはどこにでも起こりそうだけれど、ほんの少し弱かったこの家族のところで綻びたのだ。あみ子はそこでほかの糸とのつながりを失った糸の一本だ。
物語はあみ子の視点で書かれているから、あみ子が分かることしか書かれていない。
あみ子を発達・学習障害者としてとらえるなら、その障害を引き起こした要因は物語の日々が始まる以前にこの家族がみまわれた不幸にあるのだろう。
母の精神の急激な悪化も、あみ子がつくった「弟のお墓」がきっかけとはいえ、長雨で緩んだ表土の崩落のように、それまでに耐えてきた負荷がほんとうの要因ではなかろうか。書かれてはいないけれど。
兄がぐれた事情も書かれてはいない。(兄が巣ごと卵を棄ててしまうは、何かの象徴かもしれない。)
父についてもよくわからない。
書かれていないことばかりだし、無垢な心を慈しむものでもない。「感情のざらつき」はこの世界を変える要因になれるかもしれない。
救いようのない物語ではない。構成も美しい。